離婚前に多額の預金が引き出された場合の、財産の取扱いについて

財産分与

 

1 はじめに

離婚の前に、配偶者によって、夫婦共有財産である預金を多額に引き出された場合、これをどのようにして取り扱うべきか、婚姻費用の前払いとするのか、財産分与において清算するのか、見解が分かれています。

2 原則、財産分与において清算を行う

(1)裁判所の立場

裁判所は、持ち出し財産については原則として離婚時の財産分与の問題と位置づけており、婚姻費用額の算定に当たっては、考慮すべきものではないという立場をとっています。

これは、婚姻費用は、目先の生活費であるから迅速にいくらの支払い義務があるのか判断されるべきであり、裁判所は、婚姻費用の支払いを受ける者(「権利者」といいます。)が持ち出した財産の範囲や使途などの判断に時間をかけることはできないこと、

婚姻費用は、毎月生活に必要な費用を支払うことで生活を保障するいわゆる「フロー」の考え方に基づいて算定される一方、預貯金は資産であり「ストック」であるから、財産分与の際に清算すればよいと考えられるからです。

(2)判例

・大阪高裁令和4年2月24日

 権利者が、本件別居後に費消した預金について、婚姻費用の前払いと扱われるべきであるとの主張に対し、『婚姻費用の分担額は、元々夫婦の継続的な収入に基づいて算定されるべき性質のものであり、本件でも義務者が高額の年収を継続的に得ている以上、夫婦共有財産の費消については離婚時の財産分与で清算すれば足りるから、本件で婚姻費用の前払いとして取り扱うことは相当でない』とした。

3 例外、婚姻費用の前払いと取り扱う

(1)判例

  • 札幌高裁平成16年5月31日決定

妻が夫婦共有財産である預金約550万円を持ち出した事案について、

『相手方が夫婦共有財産である預金を持ち出し、これを払い戻して生活費に充てることができる状態にあり、抗告人もこれを容認しているにもかかわらず、さらに抗告人の婚姻費用の分担を命じることは、抗告人に酷な結果を招くものといわざるを得ず、上記預金から』『少なくとも2分の1は抗告人が相手方に婚姻費用として既に支払い、将来その支払いに充てるものとして取り扱うのが当事者の衡平に適う』

とし、婚姻費用の前払いと取り扱うことを認めています。

(2)例外が認められる場合

札幌高裁平成16年5月31日決定からすると、

①権利者が持ち出した預金額が明白であり、これを婚姻費用に充当することを義務者が容認している場合、

②その財産を権利者に保有させて消費可能な状態に置いたまま、さらに義務者に婚姻費用の分担を命ずることが義務者に酷である場合には、

婚姻費用の前払いとすることが例外的に認められると考えられます。

なお、②については、義務者の年収、持ち出された預金額、本来支払うべき婚姻費用の金額が考慮要素となります。

(例えば、持ち出された預金額が高額であり、義務者の年収が低い場合、少義務者に婚姻費用の分担を命ずることは酷であると評価されます。)

4 最後に

以上、離婚の前に、配偶者から、夫婦共有財産である預金を多額に引き出された場合の財産の取扱いについてお話をしました。

上記場合にどのような取り扱いがなされるかは、具体的事情を考慮する必要があるため、ぜひ、一度ご相談ください。

弁護士: 中川真緒