離婚届の不受理申出と協議離婚の無効

離婚の可否・不貞慰謝料等

1 離婚届の不受理申出

夫婦間で離婚に合意している場合、市区町村の役所に離婚届を提出し、受理されることで離婚が成立します。このとき、市区町村の窓口では書類の不備等の確認はしますが、双方の意思確認や署名が自署であるかの確認は実施されません。したがって、相手が勝手に離婚届を作成し、市区町村の窓口に提出したとしても、離婚届が受理されてしまうことはあり得ます。
上記のようなリスクを防ぐため、離婚届の不受理申出(戸籍法27条の2第3項)という手段がございます。

不受理申出とは、ご自身の名義の離婚届の提出がされても届出を受理しないよう申出をすることができる制度です。不受理申出の期間は、不受理申出取下書を提出するまでの間続きます。また、届出は原則申出人の本籍地の市区町村で行う必要があります。本籍地以外でも提出することは可能ですが、届出の宛名は必ず本籍地の市区町村長宛に実施する必要があります。

2 協議離婚の無効

では、不受理申出を実施しない間に、離婚届が提出されてしまった場合は、どうなるのでしょうか。この場合、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立てる必要がございます。協議離婚は、その届出の際に当事者に離婚意思があることが必要になりますので、届出時点で離婚意思がなかった旨の主張をしていくことになります。下記は、協議離婚が無効とされた判例です。

「前項の認定事実に基づき本件離婚届の有効性について検討すると、まず、離婚届作成時点においては、その作成経過ことに控訴人本人自ら署名、捺印していることなどからみて、控訴人は被控訴人から離婚を求められて一旦これを承諾していたことがうかがえる。
 しかし、その後間もなくして控訴人は離婚届に署名後市職員に対してそれが出された場合には止めるよう依頼しており、このことはその時点に至つて自ら離婚することを承諾しない意向となつていたことを示すものと解さざるを得ない。もつとも、控訴人は、本件離婚届に署名した後の被控訴人との話し合いにおいて、被控訴人に対してそれまでの態度を改めることを条件にそれの届出を思い止まるように頼み、もし控訴人の態度に変化が見られない時には、離婚届を出すことを認めていたが、その後控訴人は被控訴人が不満を持つていた従前と同様の態度に戻つていたという経過がある。しかし、このことだけから直ちに本件離婚届が有効と解し得るものではないことは言うまでもない。この届が有効となるためには、その時点において控訴人に離婚の意思があつたことが必要であり、前記の条件が満たされなかつたことは一応右意思の存在を推測すべき一事情となるとしても、他方、控訴人が市職員に対して前記のような依頼をしている点や離婚届用紙に署名がされてから現に離婚届がされるまでには約六か月の長い期間が経過していること及び離婚届がされたことを知つた後の控訴人の行動などを考慮すると、その事情だけから右届時点における控訴人の離婚意思の存在を推認することは相当ではない。また、控訴人は、前記の約六か月の期間中に離婚届を破棄することを被控訴人に命じたり、或いはその返還を要求したことはうかがえないけれども、これらの点も、右の考慮事情と対比すると、控訴人が本件離婚を届出時点でも了承していたことを推認すべき事情とみるのは困難である。以上に検討したところに加え、控訴人は、その本人尋問(原審)において、右届出の頃には離婚する意思は全くなく、その届出がされることを考えてもいなかつたと述べていることや、被控訴人自身も、右届出に際して控訴人が反対することを予測し、控訴人に右届出をすることを全く知らせていない事情も考慮して判断すると、本件離婚届時点において控訴人に離婚意思があつたものと認めることはできない。」(大阪高等裁判所平成6年3月31日判決)




離婚の不受理届、協議離婚無効確認調停・訴訟については弁護士にご相談ください。

弁護士: 田代梨沙子