不動産の財産分与と住宅ローン

財産分与

1 問題の所在

 夫婦が婚姻中に、住宅ローンを組んで不動産を購入した場合、離婚に伴う財産分与で当該不動産はどのようにして、精算されるのでしょうか。

 不動産がある場合には、不動産の時価が住宅ローン残額を上回っている場合と反対に不動産の時価が、住宅ローン残額を下回っている場合(オーバーローン)が考えられますが、民法では、768条で「当事者双方がその協力によって得た財産」を財産分与の対象としており、消極財産については、規定していません。不動産の住宅ローンの支払い名義人は、登記名義人になっていることが多く、この場合、将来的に、名義人がローンを支払えば、不動産の所有権取得することになるので、住宅ローンが超過している分を、消極財産分を積極財産の総額から控除することは、登記名義人でない方の当事者に不公平となるとも考えられます。

 したがって、オーバーローンの場合、財産分与においては、どのように考えられるのでしょうか。

2 不動産の時価が住宅ローン残額を上回っている場合

 この場合は、不動産の時価から、住宅ローン残額を控除して、その差額を財産分与の対象とします。

 そのため、不動産の価値が2000万円、住宅ローンの残額が1400万円の場合、差額の600万円を財産分与の対象として、2分の1である300万円が財産分与として分け与えられることになります。

3 不動産の時価が住宅ローン残額を下回っている場合

 実務的には、不動産の評価をゼロとして考えて、不動産を財産分与の対象に含めないとされています。東京高裁決定平成10年3月13日決定は、「夫婦の協力によって住宅ローンの一部を返済したとしても、本件においては、当該住宅の価値は負債を上回るものではなく、住宅の価値は零であって、右返済の結果は積極資産として存在していない。そうすると、清算すべき資産がないのであるから、返済した住宅ローンの一部を財産分与の対象とすることはできないといわざるをえない。」と判示しています。

 他方で、名古屋高裁平成21年5月28日判決では、住宅ローンが不動産の価値を上回る場合に、当該上回っている額について消極財産として、積極財産の総額から控除していますが、実務上は、上記の通り、不動産の評価をゼロとして考えて、不動産を財産分与の対象に含めないとされています。

4 結語

 以上の通り、夫婦の共有財産である住宅ローンがオーバーローンとなっている場合には、財産分与の対象としないとすることが実務上一般的ですが、住宅ローンについては、ペアローンにしている場合もあり、この場合の処理についても複雑になります。離婚の際の話し合いでは、住宅ローンの残高の処理をどうするのかを決めることが非常に重要となります。

 離婚の際の財産分与については、ぜひ、我々専門家にご相談ください。

弁護士: 森下 裕