法人名義の財産と財産分与

財産分与

1 問題の所在

配偶者が経営する法人は配偶者の財産とは別人格であるため、これを財産分与の対象として考慮することができるかが問題となります。

2 事情によっては財産分与の対象となる

(1)原則

配偶者が経営している会社など第三者名義の財産は基本的に直接財産分与の対象とはなりません(東京高判昭57・2・16判時1041・73)。

もっとも、個々の事案における事情によっては配偶者の経営する法人名義の財産も財産分与の対象となる場合がありますので、以下では参考となる裁判例をご紹介します。

(3)裁判例

裁判例には肯定例と否定例が混在していますが、法人名義の財産が実質上、配偶者個人の財産と同視できるような事情があれば、法人名義の財産が直接財産分与の対象となる可能性はありますので、お悩みの際は専門家にご相談されることをおすすめします。

ア 肯定例

・東京高判昭54・9・25判時944・55

夫婦が共同で個人事業を行っている場合、事業用財産も財産分与の対象であるとしました。

・広島高岡山支平16・6・18判時1902・61

夫婦が共同で行っていた事業が法人化された事案で、夫婦を中心とする同族会社であって、夫婦がその経営に従事していたことに徴し、法人名義の財産についても財産分与の対象として考慮するのが相当であるとしました。

・大阪地判昭48・1・30判時722・84

夫婦が協力して働いた結果、夫が代表取締役となり株式会社として飲食店事業をするようになった事案で、株式会社組織ではあるが、同会社は婚姻後夫がその個人事業により得た資金を投下して発足させた従前の個人営業の延長であり、夫個人が実質上の管理処分権を有していたことが認められるから、財産分与請求につき判断するにあたっては、夫個人の営業と同視するのが相当であるとしました。

イ 否定例

・東京高判昭57・2・16判時1041・73

夫(被告)が代表取締役を務める会社(営業利益については欠損が続いている。)が夫と別人格の法人である以上、個人企業と実質的に異ならないものとしても、同会社の資産及び営業利益が法律上当然に夫個人の資産及び利益となるものではないから、財産分与の対象外であるとしました。

弁護士: 狼谷拓迪