扶養的財産分与2

財産分与

1 扶養的財産分与とは

扶養的財産分与とは、別コラムで紹介したとおり、たとえば、専業主婦であったために離婚後に仕事に就くことが困難な妻に対して、夫が離婚後も妻を扶養するものをいいます。
このコラムでは、では、具体的にどういった場合に扶養的財産分与が認められるのか、という例を紹介します。

 

2 裁判例1―名古屋高裁平成18年5月31日家月59巻2号134頁

本件は,元妻(抗告人)が,離婚した元夫(相手方)に対し,財産分与として、本件マンションについて,第3子(長男)が成人するまで15年間の使用借権の設定を申し立てたところ、期間を離婚から第3子が小学校を卒業するまでの間とする使用貸借契約を設定することが相当であるとした裁判例です。

「ところで,夫婦が離婚に至った場合,離婚後においては各自の経済力に応じて生活するのが原則であり,離婚した配偶者は,他方に対し,離婚後も婚姻中と同程度の生活を保証する義務を負うものではない。しかし,婚姻における生活共同関係が解消されるにあたって,将来の生活に不安があり,困窮するおそれのある配偶者に対し,その社会経済的な自立等に配慮して,資力を有する他方配偶者は,生計の維持のための一定の援助ないし扶養をすべきであり,その具体的な内容及び程度は,当事者の資力,健康状態,就職の可能性等の事情を考慮して定めることになる。」

「本件各記録によれば,・・・抗告人は,社会経済的に一応の自立を果たしており,また,その収支の状況をみても,外形上は,一定の生活水準が保たれているかのようである。
 しかしながら,抗告人の上記収支の均衡は,住居費の負担がないことによって保たれているということができ〔本件各記録によれば,養育費審判においても,相手方の基礎収入において,本件ローンとして月額19万7094円,その共益費として月額1万8705円及び固定資産税として月額1万0742円などが差し引かれて計算され,その結果,未成年者3名の養育料を合計18万9000円として,相手方が本件マンションに関する費用を負担することを前提に未成年者らの養育費が算定されている。〕,抗告人及び未成年者らが居住できる住居(ある程度の広さが必要であり,そうとすれば賃料負担も少なくない。)を別途賃借するとすれば,たちまち収支の均衡が崩れて経済的に苦境に立たされるものと推認される。そうすると,本件においては,離婚後の扶養としての財産分与として,本件マンションを未成年者らと共に抗告人に住居としてある程度の期間使用させるのが相当である。
 加えて,前記のとおり,抗告人が相手方からの離婚要求をやむなく受け入れたのは,その要求が極めて強く,また本件文書において一定の経済的給付を示されたからこそであると推認され,上記給付には,抗告人が未成年者らを養育する間は家賃なしで本件マンションに住めることが含まれており,この事情は扶養的財産分与を検討する上で看過できないこと・・・,前記のとおり,抗告人は,本件マンションの購入費用を含めて合計1000万円に近い持参金を婚姻費用として提供しており,これらは,夫婦共有財産としては残存しておらず,具体的な清算の対象とはならないものの,上記金額に照らすと,分与の有無,額及び方法を定める「一切の事情」(民法768条3項)のひとつとしてこれを考慮するのが相当であること,未成年者らの年齢(殊に,平成18年×月×日をもって長女は成人に達し,平成19年3月には二女も高校を卒業する。),その他,以上で認定した諸般の事情を総合すると,扶養的財産分与として二女が高校を,長男が小学校を卒業する時期・・・である平成19年3月31日まで本件マンションについて相手方を貸主,抗告人を借主として,期間を離婚成立日である平成11年6月4日から平成19年3月31日までとする使用貸借契約を設定するのが相当というべきである・・・。」

 

3 裁判例2-東京地裁昭和60年3月19日判時 1189号68頁

 病気がちの妻に対して、夫が突然家出をしたり、暴言をはいたりした裁判例で、慰謝料500万円や清算的財産分与以外に、扶養的財産分与として150万円が認められた裁判例です。具体的な事情背景として、夫が、とある朝、普通預金通などをもって突然家を出たが、当時、妻は、喘息発作で酸素吸入を必要とし、再三入院するような病状にあり、夫に対し思い止まるよう懇願したが、夫は、これを振切って家出した、夫は家出直後月2,3万円の生活費用を渡したのみで、東京家庭裁判所から婚姻費用分担金として月5万円の支払いを命ぜられても、自主的な支払いをしなかった、夫からの離婚請求訴訟の離婚棄却判決を受けた後、夫は、当時妻の住んでいた家に突然来て、「おれは覚悟して来た、殺してやる」と言い、暴力を振るような態度に出た、妻が調査したところ、こともあろうに妻の亡くなった実弟の未亡人Aと内通して、妻に秘して金品を送ったり、同女宅に泊ったりしていることが判明した、という事情背景があります。

「財産分与にあっては、右のほか離婚後の扶養という観点からも検討を要すべきところ、その生活状況からみると、被告も安定した生活を送っているとは言えないが、原告は、それにも増して病弱のうえ、困窮した生活を余儀なくされていることは否定し難く、その年令、健康状態から今後稼働することも極めて困難である。従って、被告は、原告に対し離婚後の扶養という意味でも財産分与をすべきであるといわねばならない。しかして、本件離婚原因は、被告に専らその有責性が認められること、その他の諸事情を斟酌するとき、その財産分与額は金一五〇万円とするのが相当である。」

弁護士: 仲野恭子