意思能力を欠く配偶者との離婚

離婚

1 はじめに

 本コラムでは、意思能力を欠くため離婚に向けた協議が不可能な状態にある配偶者との離婚を希望する場合の手続についてご説明いたします。

2 離婚調停の申立ては不要であること

 離婚訴訟を提起しようとする場合、まず家庭裁判所に離婚調停の申立てをする必要があります(調停前置主義。家事事件手続法257条1項)。そして、離婚調停の申立てをすることなく離婚訴訟の提起がなされた場合、裁判所は、職権で、事件を離婚調停に付さなければならないとされています(家事事件手続法257条2項本文)。
 しかしながら、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りではありません(家事事件手続法257条2項ただし書き)。そして、相手方に意思能力がない場合は、「事件を調停に付することが相当でない」場合に該当しますので(金子修『逐条解説 家事事件手続法』(商事法務)(2013年)772頁ご参照。)、離婚調停を経ることなく離婚訴訟を進めることが可能です。

3 特別代理人の選任申立てはできないこと

 配偶者には訴訟追行能力がないので、配偶者を被告とする離婚訴訟を提起した上で民事訴訟法35条に基づき特別代理人を選任するという手段が考えられるところですが、最高裁判例は当該手段を明確に否定しています。
 すなわち、最判昭和33年7月25日(民集12巻12号1823頁)は、特別代理人は、その訴訟かぎりの臨時の法定代理人たる性質を有するところ、代理に親しまない離婚訴訟については、旧民事訴訟法56条(現在の民事訴訟法35条)の適用はなく、成年後見人の選任を待って、人事訴訟手続法4条(現在の人事訴訟法14条)によって成年後見人を被告とする訴訟を提起すべきである旨判断しました。
 したがって、離婚訴訟提起に先立ち、成年後見開始審判を申し立てるべきということになります。

4 終わりに

 今回はややイレギュラーなケースの対応についてご説明しましたが、当事務所では様々な案件について解決した実績がございますので、お気軽にご相談いただければと存じます。

弁護士: 林村 涼