婚姻費用・養育費の分担義務者が法人役員等の場合

婚姻費用・養育費

1 はじめに

本コラムでは、婚姻費用・養育費の分担義務者が、法人の役員である場合について、その法人の財産が婚姻費用・養育費の基礎となる収入に加算されたケースについてご紹介します。

2 裁判例

(1)那覇家庭裁判所平成16年9月21日審判

以下の裁判例は、妻が、医療法人の代表者理事長である夫に対し、婚姻費用の分担を求めた事案で、医療法人の財産が実質的に夫に帰属していることなどから、法人の売り上げを実質的に考慮した報酬を算定の基礎としました。

「この専従者給与額に相当する利益は、平成16年5月以降、医療法人に帰属しているところ、同医療法人は、相手方により設立され、自ら理事長となって業務を総理していることからすると、医療法人の財産は、現在、実質的に相手方に帰属し、最終的にも相手方が取得する可能性が高いと評価できること、その上、これまで専従者給与は婚姻費用として費消されてきたことも考慮すると、これを婚姻費用の分担額を定める収入とするのが相当と考えられるためである(分担義務者が個人会社の代表取締役である場合において、収入を単に源泉徴収票による報酬によるのではなく、会社の売り上げを考慮した実質的な報酬とし、その認定については、推認によった例として東京家裁昭和40年5月10日審判・家裁月報第17巻10号112頁)。」

(2)東京家庭裁判所昭和40年5月10日審判

以下は、婚姻費用の分担義務者が会社を経営している場合について、実質上相手方の個人会社であるとして、役員報酬を婚姻費用の基礎とする収入に加算した裁判例となります。

「相手方は海産物卸売業を目的とする有限会社○○○○商店の代表取締役として一応月額金七万円の報酬を受け、所得税等を控除した手取額は一応約六万二、〇〇〇円とされているが、相手方が右七万円の報酬を受けるようになつたのは昭和三六年七月であり、爾来現在に至るまでの約三年八ヶ月の間一度も増額されていないこと、他方右商店の第七決算期(昭和三五年三月一日から昭和三六年二月二八日に至るもの)においては、同商店の一年間の総売上高は金八、六二八万七、六九三円であつたのに比べ、第一〇決算期(昭和三八年三月一日から昭和三九年二月二九日に至るもの)においては、これが一億四、九一二万九、三五四円にものぼりその為売上総利益は右第七期の六五三万〇、八九〇円に対し一、三九七万二、七八七円と約二倍になつており、他方経費である一般管理販売費は第七期に比べ人件費(給料)が約二倍になつている外は多少の増加をみせてはいるが著るしい変動はないこと、第一〇期の決算書類上は右商店の年間の純利益がわずか金五二万九、三九五円となつていることおよび右商店は実質上相手方の個人会社ともいうべきものであること、以上の事実が認められる。これらの事実に徴すれば、相手方が右商店から報酬として受けている金七万円というものは経常的ないわば社員の給料と類似するものとして受けている額であつて、賞与利益の配当等を含めた実質的な報酬は右金額を相当額上回り、一ヶ月平均少くとも金一〇万円を下らないものと推認するを相当とする。けだし年間の総売上高が約一億五千万円に達するものである以上いかに卸売業であるとはいえ、一般経費を差引いた純利益がわずか約五三万円弱であるとはとうてい措信できず、かかる決算書類上の数字と会社の実際における数字との間には若干の距りがあること、特に個人会社の場合それが著るしいことは、前記証拠に照らし推認しうるところというべく、その個人会社の実権者である代表取締役の収入は単に決算書類上の数字をもつて律することができないというべきだからである。もつとも、このような個人会社の代表取締役の場合その収入を明確に確定することは事の性質上殆んど不可能というべきであり、他方本件のように婚姻費用の分担額を定める場合においては必ずしもこれを確定することを要せず、相当程度幅のある認定をもつて足りるものというべきであるから、相手方が前記商店より受ける報酬は、賞与配当等一切のものを含め一ヶ月平均少くとも金一〇万円を下らないものと推認し、これを婚姻費用の分担額決定の基礎となし得るものというべきである。」

3 おわりに

以上のように、婚姻費用・養育費の分担義務者が会社を経営しており、又は、会社の役員である場合について、その会社の売り上げを実質的に考慮できる場合があります。
婚姻費用・養育費について、お悩みの場合は一度専門家にご相談ください。

弁護士: 伊藤由香