夫婦共有財産の隠匿

財産分与

1 はじめに

 本コラムでは、相手方が、財産分与の場面で財産を隠匿していることが疑われる場合の対処方法についてご説明いたします。

2 調査嘱託

 金融機関や証券会社に対する調査嘱託を申し立てることで、相手方が隠していた財産を発見することができる場合があります。しかしながら、申立てに際して、調査嘱託の必要性を疎明する必要があるので(いわゆる探索的な申し立ては認められない)注意が必要です。

3 相手方による財産の隠匿を推認させる方法

 調査嘱託の結果、相手方の隠し財産を見つけることができない場合であっても、相手方の収入、婚姻期間中に相手方の収入によって賄われた生活費や相手方の別居前後の行動等を丁寧に立証することで、相手方が一定額の財産を隠していると推認させ、隠していると推認可能な金額についても財産分与対象財産と認定させる方法があります。
 裁判例の中にもこのような方法でみなし隠し財産の存在を認定したものがあります。例えば、大阪高判令和3年8月29日家判36・69は、
・被控訴人が、平成24年から平成27年までの給与収入として、合計約3386万円にも上る高額な所得を得ていたこと
・別居時(平成28年8月15日)までの間は、生活費(住居費を含む。)のほか、子らの進学塾代や私立学校の授業料等、全部ではないものの多くの家計費の負担を控訴人の収入から行ってきたこと
・被控訴人の別居後の支出が多くとも年間約850万円程度であること
・被控訴人は、支出について、毎年、どれだけの額の支出をしたのかについては具体的に明らかにしておらず、別居前の支出についての的確な証拠も提出していない。
・基準時における被控訴人名義の預貯金残高の合計が300万円にも満たない額であったこと
等の事情から、「被控訴人は、基準時当時、本件訴訟で明らかとなっている被控訴人名義財産以外に、少なくとも平成24年から別居時までの間の給与収入の二、三割程度の資産を保有し、あるいは保有し得たものと推認できる。」と判断しました。

4 結語

 財産分与は法的知識が結果に与える影響が大きい分野ですので、財産分与でお困りの方は、財産分与に詳しい弁護士にご相談することをおすすめいたします。

弁護士: 林村 涼